歯科用のレントゲンには様々な種類があります。デンタル、パノラマ、パントモ、デジタルなど、よく聞くけど何が何だかわからないという人も多いのではないでしょうか。
そもそもレントゲンとは、透過性の高いX線を照射することで身体の内部の様子を2D(二次元)で表現できる撮影装置の通称です。正しくはX線撮影といい、レントゲンという言葉はX線を発見した人物名から来ています。この記事では、わかりやすくするためにX線撮影についてレントゲンという言葉を使って説明していきます。

レントゲンとは
レントゲンでは白と黒の影の様子が写し出され、エナメル質などの硬い歯質はより白く、歯髄やう蝕歯質などの柔らかい部分はより黒く写るため、虫歯の診断に適しています。ただし歯髄はすべて黒く写るため、歯の生死を判断することはできません。
歯科のレントゲンにおいては、口内にフィルムを挿入して撮影する口内法と、口外にフィルムを固定して撮影する口外法の2つの撮影方法があります。
■口内法
口内法では、口内に入れて使用する小型のデンタルフィルム(さらに標準型と小児用がある)と、噛み合わせた状態を撮影するための咬合フィルムを用います。
デンタルフィルムを使用したレントゲンをデンタルともいいます。デンタルレントゲンでは細かな部位ごとの撮影が可能です。フィルム1枚につき、最大4歯の様子を撮影することができます。全顎の様子を撮影するには、10部位に分けた10枚法や、14部位に分けた14枚法などが一般的です。
また、フィルムの向きや照射方向を変えることで、二等分法、平行法、咬翼法といった撮影方法を目的に合わせて使い分けていきます。
咬合フィルムを使用したレントゲンを咬合法といい、片顎全体の様子を撮影することができます。フィルムを上下の歯で噛み合わせた状態で使用し、上から照射することで上顎全体の様子を、下から照射することで下顎全体の様子を映し出すことができます。
基本的には一方向からの撮影になるため(単純撮影)、骨の重なりや歪みが出てしまうことがあります。その代わりに鮮明に写るのが特徴です。X線の照射角度やフィルムの位置を変えて何枚も撮影することで、知りたい内容を正確に把握することができます。
ただし口内法は、口内にフィルムを入れての撮影になるため、長時間の撮影は患者への負担が大きくなってしまいます。
下記に口内法の撮影方法ごとの特徴と観察できる症状についてまとめました。
口内法
撮影法 | 特徴 | 観察できるもの |
二等分法 (等長法) |
・ほぼ歯の実寸大で写る ・歯冠部から根尖部まで鮮明に写る ・歪みが出る |
・歯の実寸 ・隣接面の虫歯 ・歯周炎 ・根尖病巣 |
平行法 | ・歪みが少ない ・歯冠部から根尖部まで鮮明に写る ・口蓋や口腔底が低い日本人には使えないことが多い |
・隣接面の虫歯 ・歯周炎 ・根尖病巣 |
咬翼法 | ・歪みが少ない ・歯冠部や歯槽骨辺縁が鮮明に写る ・根尖部まで写らない |
・隣接面の虫歯 ・軽度歯周炎 ・咬合状態 ・補綴物の様子 |
咬合法 | ・広範囲の病変の検査が可能 ・頬側か舌側かの位置関係がわかる |
・唾石などの異物 ・顎骨折 |
■口外法
口外法はフィルムを口外に置いて撮影する方法です。フィルムを自由に動かすことができるため、連続した多方向からの撮影(断層撮影)が可能です。よく聞くパノラマレントゲンも、口外法に含まれます。パノラマレントゲンは正式にはオルソパントモグラフィーといい、それを略したパントモという表現も同じ意味で使われます。
パノラマレントゲン(パントモ)※は、湾曲している顎全体の様子を展開図のように写し出すことができます。パノラマレントゲンで大まかな状態を把握した後、必要があればデンタルレントゲンで問題箇所の撮影をしていくなど、併用して使用されることが多い方法です。
※パノラマレントゲンの仕組み パノラマレントゲンでは、断層撮影とスリット撮影という二つの仕組みが使われています。断層撮影は、見たい部分を中心に管球(X線が放出されるところ)とフィルムを動かして撮影していくことで、骨が重なり合わず見たい部分だけを写すことができる方法です。しかし複数の写真を重ね合わせたものなので、全体的に少しぼやけたような仕上がりになります。 スリット撮影とは、X線の照射面を絞り、連続した何枚もの短冊状の画像を1枚のフィルムに写し出す方法です。断層撮影の仕組みに、焦点があっている部分のみを切り取って写し出すスリット撮影を組み合わせることで、単純撮影と遜色ない鮮明な仕上がりにすることができます。 |
その他にも口外法として、頭部を様々な方向から単純撮影したWaters撮影法やセファロなどがあります。これらは主に顎顔面の検査に用いられます。
口外法
撮影法 | 特徴 | 観察できるもの |
パノラマ断層撮影法 | ・歯列、顎骨、上顎洞が1枚に写る | ・歯の向きや噛み合わせの状態 ・嚢胞の有無 |
断層撮影法 | ・炎症や腫瘍の病変の発見に用いられる ・最近ではCTやMRIが主流 |
・悪性腫瘍による骨破壊の程度 |
後頭・前頭方向撮影法 | ・後方から前方に照射 ・顔面骨や副鼻腔が写る |
・顔面骨の異常 ・親知らずの位置関係 ・副鼻腔内の液体貯留の有無 |
Waters撮影法 | ・顎を斜め上に突き出した状態で後方から照射 ・上顎洞や前頭洞の様子が写る ・歯列部は他の骨と重複して観察しづらい |
・上顎洞の診断 ・上顎骨の骨折、炎症、病変の観察 |
Waters斜位方向撮影法 | ・下顎の斜め下から照射 ・下顎の病変の観察に用いられる ・嘔吐反応が強い、開口障害、寝たきりの患者にも可能 |
・下顎骨の骨折、炎症、病変の観察 ・骨髄炎、骨膜炎の観察 |
側斜位方向撮影法 (Schuller変法) |
・側面を斜め上から照射 ・側面からの顎関節の様子が写る ・左右開閉の4回撮影する |
・下顎頭の発達異常 ・顎関節の開閉時の動き |
眼窩下顎枝方向撮影法 | ・開口してやや横を向いた状態で正面斜め上から照射 ・正面からの顎関節の様子が写る |
・下顎頭の骨折 ・顎関節症による下顎頭の変形 |
頭部X線規格撮影法 (セファロ) |
・世界共通の撮影条件のため経年変化の観察や治療前後の比較がしやすい ・側面、正面、斜位の3つの角度から撮影が可能 |
・顎骨の実長計測 ・矯正治療の評価 ・顎関節症治療の評価 |
デジタルレントゲンとは
従来のレントゲンはフィルムによって出力されていましたが、最近では画像をデータで出力するデジタルレントゲンが普及しています。デジタルレントゲンは、従来のフィルム式のアナログレントゲンよりも、放射線の被曝量を3分の1~10分の1以下にすることができます。さらにフィルム代がかからないため歯科医院の経済的負担も少なくなります。また、データで残すことが出来ることから、劣化することなく長期的な保管が可能となります。コピーもアナログのものと比べると容易にとることができます。
レントゲンなどの歯科情報は、震災など有事の際に身元確認にも利用される社会的価値のあるものです。データをクラウド化することで歯科医院外での保存も可能となり、データ保管機器の故障や廃業となっても半永久的にデータの保全が可能となります。レントゲンのデジタルデータ化は、社会的なメリットも大きいといえるのです。レントゲンだけでなく、CTスキャンやCAD/CAM装置など、歯科業界では急速にデジタル化が進んでいます。