古代ギリシャから続く矯正歯科治療の歴史 | 歯医者の選び方 | 歯医者がおすすめする歯科医院
2017年6月14日

今では一般的になっている矯正歯科治療。元イエローキャブ代表取締役社長で現芸能事務所サンズエンタテインメントの野田義治会長が、所属タレントに対して整形手術を許さず、「歯を治せ」「歯だけはいじっていい」と言っていたのは有名な話です。
歯が痛い、虫歯を治すために歯医者に行こうというのは分かり易いですが、矯正歯科はそもそもどういった経緯で出来たのでしょうか。調べてみました。

矯正の歴史

矯正歯科治療のはじまり

調べていくと最も古くは紀元前、古代ギリシャの時代に遡るようです。
矯正歯科の歴史はとても古く、古代ギリシャでは、顔の造りや肉体の美しさだけでなく、歯並びにも関心があったと言われています。
「医学の父」「医聖」「疫学の祖」などと呼ばれる古代ギリシャの医師ヒポクラテスの著作の中で歯並びの矯正や嚙み合わせなどについて書かれています。古代ローマの医師アウルス・コルネリウス・ケルススは「歯は指で圧力を加えれば移動させられるので指で正しいポジションに押すように」と言っています。
歯並びを動かすためと思われる装置が古代ギリシャやイタリア半島中部のエトルリアの遺跡から出土されていることから、紀元前頃から装置を使って歯並びを直そうとしていたことがわかります。
現存する建造物や彫刻は白色ですがかつては鮮やかな彩色が施されていたように、色彩豊かな文明として知られるギリシャ文明では、すでに歯並びの良さも美しさの基準として考えられていたのかもしれません。

近代における矯正歯科治療

矯正歯科治療の概念が広まり始めたのは18世紀のヨーロッパで、現在の基礎となった多くの装置が開発されていました。

ヨーロッパでの歯科矯正学

現代のワイヤーを使った方法は、フランスの歯科医師、歯学者ピエール・フォシャール氏の研究に始まると言われています。ピエール・フォシャール氏の著作『歯科外科医、もしくは歯の概論』(1728年)に、アーチ状の金属板を用いた矯正装置についての記載があります。
1803年の『人の歯の博物学』『歯科疾患治療の歴史』において、フォックス・ジョセフ氏は乱ぐい歯の改善に用いられるチンキャップについて記しています。この頃から歯並びと咬合の関係性について重視されるようになります。
さらに顎と歯並びに注目したフランスの歯科医ルフロン氏は、歯間を広げるために弾力性のある金属の器具を歯列の内側につけて直す方法を考案しています。この器具は、彼の著作『新歯科技術の理論と実際』(1841年)の“Orthodontosie”と名付けられた章に記載されており、現在の歯列矯正“Orthodontics”の語源になっていると言われています。

アメリカでの歯科矯正学

19世紀後半以降、歯科矯正学の中心は戦火交えるヨーロッパからアメリカへと移ります。
1880年、専門書『口腔の奇形』の刊行をきっかけに、歯科矯正学という学問が専門分野として認められるようになりました。『口腔の奇形』は歯科矯正学について体系的に記されたアメリカ最初の教科書となります。その著者ノーマン・ウィリアム・キングスレー氏は、「矯正歯科の恩人」とも呼ばれ、現在の機械的矯正装置に多大な影響を与えています。
機械的矯正装置は小児矯正に多く用いられており、口の周りの筋肉の力を使って顎の成長を調整することができる装置です。現在でも使われている、床矯正装置の一つである咬合斜面板(ジャンピングプレート)は、キングスレー氏によって考案されたものです。
その後1900年代に入り、歯科矯正学を確立させたのが「歯科矯正学の父」と言われているエドワ−ド・アングル氏です。アングル氏は科学的アプローチを根拠に、不正咬合の分類とその治療法を示し、装置の改良を行いました。歯科矯正学の専門学校を創立し、数々の優秀な歯科医師を生み出しました。アングル氏は世界最初の矯正歯科専門医にもなっています。

現代に繋がるエッジワイズ法

現在のワイヤーを用いたマルチブラケット装置は、アングル氏創案のエッジワイズ法が基礎となっています。エッジワイズ法では、ブラケットを直接歯に接着する技術がなかったため、歯列にバンドと呼ばれる金属のベルトを巻いて、その上にブラケットを溶接していました。
アングル氏の死後、エッジワイズ法を改良したストレートワイヤー法が考案され、それまでオーダーメイドで作成していた装置の代わりに、既製のワイヤーアーチを用いることで治療時間の大幅な短縮が実現しました。ストレートワイヤー法は現在でも多くの歯科医院で扱われています。
1980年代には、日本の三浦不二夫氏や増原英一氏によって、エナメル質への接着技術であるダイレクトボンディングシステムが開発され、バンドではなく歯のエナメル質に直接ブラケットを接着するマルチブラケット装置が用いられるようになりました。以降現在に至るまで、マルチブラケットを使った方法が矯正歯科治療の主流となっています。

最新の矯正システム

日々進歩している矯正歯科治療において、現在取り入れられている新しい手法について紹介します。

裏側(舌側)矯正

歯の裏側にブラケットを装着する方法です。表側から銀色の器具が見えないため、人に気づかれずに歯並びを直すことができます。奥歯を固定源として、後ろの方向に効率的に動かすことができるため、出っ歯の矯正にはもってこいの方法です。また歯の裏側の方が再石灰化が行われやすいため、虫歯のリスクも低くなります。

審美ワイヤーや審美ブラケット

目立ちにくい透明のワイヤーや、セラミックのブラケットを用いた方法です。ワイヤーやブラケットを歯の色に合わせることができるため、見た目の印象が変わらずに歯列矯正をすることができます。
逆に、人に見せて楽しむ器具もあり、若者達にはファッションアイテムの一つとして取り入れられています。ブラケットにつけるモジュールというゴムを、キャラクター付きやカラフルなものにすることで、歯並びの矯正をファッション感覚で楽しむことができます。

マウスピース矯正

マウスピース矯正は、歴史あるワイヤー矯正に比べると新しい方法となります。マウスピースには透明なプラスチック素材を使っているため目立ちません。また取り外しが可能なので虫歯や歯周病になりにくいというメリットがあります。強い力を使って動かすわけではないため時間がかかるというデメリットがありましたが、近年のマウスピースはワイヤーを使った方法と同じくらいの期間での治療が可能となっています。

インプラント矯正

インプラント矯正は、歯茎や歯の裏側に埋め込んだ、アンカーと呼ばれるネジを支点として歯列を動かします。従来の歯を支点とする方法では、歯が相互に動いてしまうために任意の方向に動かなかったり、時間がかかったりしていました。
インプラント矯正はアンカーによって支点がしっかりと固定されているため、自由な方向に効率的に動かすことができます。治療期間も数ヶ月単位で短縮できるようになりました。
ただし外科的な手術が必要である点と、歯槽骨にインプラントを埋めるための十分な厚みがないと治療が行えない点で注意が必要です。

骨切矯正術

歯を支える骨の一部を切ってしまうことで、骨ごと動かしやすくする方法です。コルチコトミー法、オステオトミー法などがあります。スピード矯正とも呼ばれ、ワイヤー矯正と併用することで半年から1年程の治療期間短縮が期待できます。

まとめ

紀元前から行われている歯列矯正は、先人の努力によって今日に至るまで様々な変遷を遂げてきました。今では当たり前となった審美性に優れた器具やスピード矯正技術は、指で押していた時代からは考えられない進歩です。ヨーロッパで基礎を築かれアメリカで確立されたように、海外での発展が目立ちますが、ダイレクトボンディング法を生み出した日本人の貢献も無視できません。
美しさの追求から始まった矯正歯科治療ですが、歯学や医学の発展により、虫歯や歯周病などの口内疾患だけでなく、顎関節症や肩こり頭痛などの全員疾患にも関わりがあることがわかってきました。歯並びは、美しさだけでなく健康にも影響するのです。 歯並びが気になるのに歯列矯正をしないと、古代ギリシャの人々に「時代遅れ」なんて言われてしまうかもしれませんね。